

こんにちは、髪ふさアドバイザーの吉宮です。
植毛をしようと考える人が、下調べをする中でどうしても気になるのが、人工毛植毛です。
ちらちら気になっていた方の中には、割引価格での体験モニターに参加し、施術を受けたという方も見受けられます。
ただ、人工毛植毛にはリスクもあるということを事前に知っておいてほしいと思います。
今回は、人工毛植毛の負の側面をあえて採り上げてみました。
人工毛植毛が気になっている方は、ご一読くださいね。
植毛の種類と違いとは?
植毛というのは、悩みの種である薄毛になってしまった部分へ、新たに毛髪を植え込むこと。
いたってシンプルな考え方と解決法です。
では、いったいどこから、その毛髪を調達するのでしょうか。
その手段としては二つの方法があります。
- 今生えている自分の毛髪を毛根ごと採取してくる方法
- 人工的に作られた毛髪を使う方法
この移植用毛髪の調達方法の違いが、そのまま植毛の種類となっています。
- の方法が「自毛植毛」です。
- の方法が「人工毛植毛」です。
自毛植毛ってどうやるの?
人工毛植毛の前に、まずは自毛植毛の仕組みを知っておきたいと思います。
自毛植毛は、後頭部などの髪がたくさんある部分から状態のいい髪を毛根ごと採取してきて、それを薄い部分に植え込んでいく植毛方法です。
今生えている髪を毛根ごとスポッとくり抜いて移動させるだけなので、今以上に髪が増えることはありません。
ただ、移植に成功した髪は、その後、毛周期システムが正常化するので、髪は太く長く育ち、やがて抜けてもまたその下から新たな髪が生えてきます。
【メリット】植毛した髪は、半永久的に生え続ける
【デメリット】自分の髪の総本数は変わらない

メリット・デメリットについては、
以下の記事にまとめています
自毛植毛と人工毛植毛 何がどう違うんだろう・・・? 自毛植毛と人工毛植毛の違いをすばやく知るため、今回はそれぞれのメリットとデメリットを比較することで、検証してみま …
人工毛植毛の特徴とは?
人工毛植毛は、人工的に作られた髪を薄毛になった部位に植え込んでいく方法です。
ウィッグなどに使われる人工毛髪をイメージするとわかりやすいと思います。
植毛に使われる人工毛には先端に器具が付いていて、それを直接、頭皮に植え込んでいきます。
ここが毛髪の根元に結いつける増毛施術とは異なる部分です。
人工毛植毛は好きなだけ増毛できる
人工毛植毛は、自分の髪を採取するわけではないので、満足のいく本数を植毛することができます。
植えた分だけ髪の総本数が増えるので、増毛効果はバツグンです。
人工毛での植毛は、髪色や長さ、カールやストレートなど、豊富な種類の中から自分の髪に合ったものを選ぶことができます。
初めから長さのある人工毛を植えるので、施術が終われば増毛が完成していて、即効性もあります。
【メリット】即効性のある増毛効果
人工毛植毛って何年ぐらいもつの?
人工毛植毛の施術後、人工毛が抜けるまでの期間というのは、人によって差はありますが、だいたい5年~7年程度だと言われています。
ただ、植え込んだ人工毛は生活する中で、自然に抜け落ちていきます。
年に10%程度が自然脱落していくそうなので、仮に1000本の人工毛を移植したとすれば、毎年100本程度は抜け落ちてしまいます。
単純計算で、5年経つと半減してしまうことになります。

抜けた人工毛は、再利用できません
5年も経つと、再び薄毛が目立ってくるので、もう一度、追加植毛(メンテナンス)が必要となります。
つまり、見た目を維持したい場合は5年ではなく、1、2年ごとにメンテナンスとして、抜けた本数分を植え足していくのがいいかもしれませんね。
【デメリット】定期的なメンテナンスが必要
人工毛植毛のリスク
好きなだけ増毛できて、施術が終われば見た目も完成という、大変魅力のある人工毛植毛なのですが、注意したい点があります。
一本一本の人工毛の先端には、頭皮に埋め込むためのフック状の器具が付いています。
この部分を皮下に埋め込むことで、しっかりと固定され、容易に抜け落ちなくなるのですが、これは人体にとっては異物です。
極めて小さい物ですが、異物となるものを無数に埋め込むため、人工毛植毛には拒絶反応や感染症のリスクがあります。
【デメリット】頭皮のかぶれ・ただれ等が起こりやすい
リスクを最小限に抑える対策とは?
人工毛植毛を行う場合には、最初にテスト植毛を行います。
しばらく様子をみて拒絶反応などが起きなければ、その後、本格的に人工毛を植毛していきます。
人工毛植毛を行った後は、専用ケア用品でのお手入れが必要となります。
体質なども関係しますが、このケアを怠ると感染症を引き起こすことになるので、決められたお手入れをきっちりと行う必要があります。
もちろん、施術したクリニックでケアの指導もあります。
ところが、それをきっちりと守っている方でも、無数に埋め込まれた異物に対する衛生管理は難しく、頭皮トラブルで皮膚科を訪れる方は少なくないようです。

感染症は頭皮の表面だけでなく、内部で起こってしまうこともあるそうです
実は、この人工毛植毛のリスク面が大問題になったことも過去にはありました。
人工毛植毛を禁止した国もある!?
少し過去の出来事を振り返ってみます。
日本で人工毛植毛が盛んに行われたのは、1970年代でした。
ところが、人工毛を移植したことによる皮膚トラブルが次々と表面化し、社会問題化したため、あれほど人気を博した人工毛植毛でしたが、しだい人の記憶から薄れていきました。
その辺りの事情も知っておきたいと思います。
人工毛植毛がキケンといわれるワケとは?
移植できる毛髪に制限がある自毛植毛と違い、好きなだけ増毛が可能な人工毛植毛は、非常に画期的な移植術として、日本でも大きな期待を背負って試みられました。

最初は良かったんです
先程来さんざん語っているように、人工毛植毛には施術後のていねいなケアが欠かせません。
全員が完璧にケアできるならよかったのでしょうが、そうはいきませんでした。
施術後、しばらくすると人工毛を移植した頭部にかぶれやただれなどが生じ、皮膚科を受診する人が現れ始めたのです。
その後も、術後の感染症や、拒絶反応による重篤な後遺症、植毛の脱落など、数多くの有害事象が各地域の診療所から報告されるようになったため、人工毛植毛は「非常にリスクが高いもの」と認識されるように至りました。
海外でも、同様のことが起きていました。
その結果、アメリカでは現在も人工毛それ自体がFDA(※)によって有害器具に指定され、事実上、人工毛植毛は禁止されています。
※FDA(アメリカ食品医薬品局) 医薬品規制や食の安全を守るため、消費者が日常的に接する製品について、許可や違反品の取締りなどを専門的に行う機関。 日本の厚生労働省のようなもの。
では、日本はどうなっているのでしょうか。
日本国内の人工毛植毛は違法?
現在、日本国内での人工毛植毛は違法ではありません。
法律に反してはいないので、さらに研究が進み、安全性の向上した人工毛植毛が、取扱クリニックでは提供されています。
ただし、日本皮膚科学会のレポートには、次のような評価がされています。
国内における人工毛植毛についての評価です。
「日本国内で人工毛植毛術を施行することに医学法上の問題はないが、有害事象の発生を看過できないため、安全性に関する高い水準の根拠が得られるまでは、原則として人工毛植毛術を行うべきではない」
つまり・・・要約すると、以下のような内容となります。
「人工毛植毛したいなら、してもいいんだよ。特に法律上の問題はないからね。
ただ、いろんなトラブルの報告は上がってきてるし、ちょっと見過ごせないレベルなんだよね~。
まあ、やりたい気持ちはわからないでもないけどね、だれが見ても安全性が高いと判断されるまでは、やめといたほうがいいと思うよ。
悪いこと言わないから、やめときな」

吉宮の意訳・・・ですね。
【皮膚科学会の見解】
原則として人工毛植毛術を行うべきではない!
人工毛は悪くない!
私自身、皮膚科の先生にひどい写真など見せてもらっていたので、人工毛植毛に関しては否定的になっていますが、人工毛そのものは大変、有用な素材です。
医療分野での「見た目ケア」から、日常での「おしゃれアイテム」としてまで、幅広い可能性を秘めています。
世界中で、人工毛研究は最新技術を採り入れて進化していますし、限りなく人毛に近い素材を目指して突き進んでいます。
それらの成果が、ウィッグ(かつら)や増毛(エクステ)施術などへ還元され、各メーカーの商品として必要とする人たちの手元に届けられる、といういわけです。
それに医療用のウィッグなどは、人工毛であっても本当に美しくて自然な風合いで、病気と闘う患者の心を支えてくれる、重要な支援アイテムとなっています。
今はまだ、人毛に勝るものは出来上がってはいないようですが、それも時間の問題かもしれませんね。
最近の人工毛植毛
人工毛植毛の後遺症などが社会的な問題となってしまい、日本でもいったん中断されていた人工毛移植ですが、また復活のきざしが見えてきました。
植毛クリニックが独自に研究開発しているものの他、「ヘアステティックス」や「バイオファイバー」など海外で開発された新しい毛髪インプラント(植毛)が輸入され、美容クリニックなどで人工毛植毛が行われているようです。
こういった新しく開発された毛髪インプラントは、2017年頃から日本国内でも広まっていったようですが、まだ診療実績は浅く、現在は臨床データを集めている段階、ともいえます。
調べていると、あちらこちらで人工毛植毛の体験モニター募集の文字が踊ります。
現在の人工毛(インプラント用)は、改良されてより安全性の高いものになっているのでしょうが、人工毛植毛を扱っていた美容クリニックが、ある日パッタリと施術を取りやめ、メニューから削除しているのを見ると、少し心配です。
理由はそれぞれあるのでしょうが・・・。
やはり、もっともっと臨床データが出そろってからのほうがいいように思えます。
自毛植毛と人工毛植毛、どっちがおすすめ?
私がおすすめするのは、安全性と確実性という点で、やはり自毛植毛です。
自毛植毛の基礎となる研究は実は日本で行われていました。
戦争でいったんは中断してしまった植毛研究ですが、1939年に皮膚科医の奥田庄二先生が「パンチグラフト植毛」という手法を発表しました。
その成果を、アメリカの皮膚科医であるノーマン・オレントライヒ先生(Dr.Norman Orentreich)が、1959年に、薄毛治療のための自毛植毛法(パンチグラフト法)として確立しました。
その後、1993年にアメリカで開催された国際毛髪外科学会をきっかけに、自毛植毛は、世界中に広がり、技術開発の研究と改善改良によって、現在に至っています。
このように、自毛植毛には50年以上の実績があり、データがあり、技術が確立していることも、おすすめの要因です。
まとめ
今回は、ちょっと気になる人工毛植毛について、過去の問題なども照らし合わせながら、試す価値があるかどうかを考えてみました。
人工毛植毛は、いまだ発展途上で、課題も多く残されています。
特に施術後の、患者自身のお手入れの仕方によっては感染症のリスクが高まるという、不安定な要素がどうしても気にかかります。
そういう部分が解消されない限り、人工毛植毛をおすすめすることは難しいかと思います。
どうしても人工毛植毛を試したい方へは、自毛植毛と人工毛植毛の両方を扱っている植毛クリニックで相談することを提案いたします。
とりあえず現時点では、やはり日皮会のガイドラインに従い、植毛を考えている方へは、自毛植毛のほうをおすすめします。
もちろん、腕のいいドクターにめぐり合うことが前提ですよ。
「庭正面の芝が枯れて土がむき出しになっちまった――」
「――だったら、裏庭の芝を根っこごと間引いてきて、植えればいいんじゃない?」
「「移植だね!」」